事例名称 |
緊急停止時の圧縮機回りのバルブ誤操作による塩化ビニルプラントの爆発 |
代表図 |
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事例発生日付 |
1968年09月18日 |
事例発生地 |
富山県 高岡市 |
事例発生場所 |
化学工場 |
事例概要 |
塩ビ製造装置で計装用空気圧低下のため、分解ガス圧縮機を切り離して、緊急停止した。バルブ操作を誤り、分解ガスが放出され爆発火災となった。圧縮機の緊急停止時の操作は複雑であり、かつその時のバルブ操作を誤ると可燃性ガス噴出の危険があった。操作ミスで簡単に可燃性ガスが噴出するシステムにも問題があった。また緊急時の作業内容が複雑なことは、作業員に緊張を強いてミス発生を誘発する。 |
事象 |
塩化ビニル(塩ビ)製造装置で、計装用空気圧低下のため、自動緊急遮断装置が作動し、ナフサ分解ガス冷却塔出口とナフサ分解ガス圧縮機の間、及び圧縮機と二酸化炭素除去塔の間で遮断された。そのため、ナフサ分解ガス圧縮機を保護するため、圧縮機の緊急停止が必要となった。圧縮機の停止作業が複雑なため、バルブ操作の誤りをまねき、圧縮機内部の冷却水による直接冷却器(インタークーラー)のバルブ閉止が遅れ、可燃性の分解ガスが噴出し、圧縮機室内で爆発が発生、引き続き火災となった。 なお、ナフサ分解ガス圧縮機は、塩ビ製造装置内にはなく、酸素プラントの圧縮機室にあり、運転も酸素プラントで行っていた。 インタークーラー: 多段圧縮機では圧縮されるガスが高温になるのを防止するため、段間で冷却することが一般的である。この熱交換器をインタークーラーという。通常、熱交換器では高温物体と低温物体が直接接触することはない。これとは別に、高温物体と低温物体を接触させて熱交換する方式を直接熱交換という。この例のインタークーラーでは分解ガスの冷却に水を直接接触させている。 |
プロセス |
製造 |
単位工程 |
移送 |
単位工程フロー |
図2.設備図
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図3.単位工程フロー
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物質 |
ナフサ分解ガス(水素、一酸化炭素、エチレン、アセチレン、メタン、二酸化炭素)(naphtha cracking gas) |
事故の種類 |
漏洩、爆発・火災 |
経過 |
1968年9月18日09:30 分解炉に点火し、ナフサ分解を開始した。 17:05 計器作動用空気圧低下のため自動緊急遮断装置が働き、分解ガス圧縮機は切り離され、分解ガスは圧縮機内循環となった。 17:07 運転員2名が緊急遮断時の作業標準に従い圧縮機の手動還流弁を開き、制御室に戻った。圧縮機の中間段にある直接冷却器(インタークーラー)の排水弁が開いていたとの報告があり、再び2名は排水弁を閉じに行った。既に分解ガスは噴出していた。 17:12 圧縮機室で爆発が起こった。引き続き分解ガス、および潤滑油などが燃え火災となった。 17:25 分解ガスの燃焼を止めるためガスホルダー出口弁を閉鎖した。 17:38 圧縮機室内の油が燃え尽きて火災が終わった。 |
原因 |
1.爆発した可燃性ガスは、圧縮機のインタークーラーの排水弁から噴出したナフサ分解ガス(主成分:水素、一酸化炭素)である。排水弁は、緊急遮断操作時に開放後すぐに閉じなければならないところが開のままになっていた。 2.発火源は、スプリングハンガーの断熱材に浸潤したタービン油が酸化発熱し自然発火したものと推定されているが、可燃性ガスの漏洩と油の自然発火の時期が、偶然に合致する機会は希で、むしろ圧縮機室内にFID検出型のガスクロマトグラフが置かれ、使用中であれば、水素の小火炎が着火源となった可能性は十分にあったと推定される。 |
対処 |
分解ガスの燃焼を止めるためガスホルダー出口弁を閉鎖 |
対策 |
1.保安、防災体制の強化、特に自動装置の管理システムの再検討 2.緊急停止時における操作の簡素化、運転マニュアル整備、従業員への教育訓練 3.高圧スチーム配管(発火源と推定されている)の管理改善(保温材への油の付着防止) 4.可燃性ガスの系外への排出防止 5.機器の操作性、通風への配慮 |
知識化 |
緊急時の作業はできるだけ簡単にすべきである。複雑な操作が要求される作業では、1つのミスが重大な事故につながらないようなシステム設計にすべきである。 |
背景 |
1.圧縮機の緊急遮断操作時に開放した排水弁を閉じ忘れたことが事故の最大の原因である。圧縮機の構造上、緊急停止時に逆スラストを防ぐため、手動還流弁を開き、さらに直ちにインタークーラーの排水弁を開く必要がある。その後分解ガスがピットに流出する前に排水弁を閉じなければならない。この操作が複雑なため、運転員が排水弁を閉める操作を忘れたものと考えられる。また、このようなミスで簡単に系外に可燃性ガスが噴出する装置、操作の設計にも問題がある。 2.分解ガス圧縮機は、製造装置の主機器で緊急操作も必要になる。この圧縮機だけが、塩ビ製造装置と切り離されて酸素プラント内に設けられ、運転も酸素プラントで行っていたようだ。報告書に明記されていないが、塩ビ装置が緊急停止した情報は酸素プラントに同時に情報として伝えられていたであろうか。 |
よもやま話 |
☆ 当該装置設計時の技術水準や塩ビ用ナフサ分解ガスの特徴はよくわからないが、複雑なバルブ操作を必要とするような圧縮機しかなかったのであろうか。特に冷却水による直接冷却の熱交換器水へのガスの溶解等を考えると疑問が残る。現在設計するならどうであろうか。 |
データベース登録の 動機 |
バルブ操作ミスにより爆発に至った例 |
シナリオ |
主シナリオ
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価値観不良、安全意識不良、リスク認識不良、調査・検討の不足、仮想演習不足、想像力不足(緊急時操作のイメージなし)、計画・設計、計画不良、設計不良、非定常操作、緊急操作、緊急停止、二次災害、損壊、爆発、身体的被害、死亡、3名死亡、身体的被害、負傷、7名負傷、組織の損失、経済的損失、直接損害額3億円、社会の被害、社会機能不全、周辺6km被災
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情報源 |
N社T工場事故調査団、N社T工場爆発事故調査報告書(1969)
高圧ガス保安協会、高圧ガス事故例集(1982)、p.108-109
化学工業協会、事故災害事例と対策 化学プラントの安全対策技術 4、丸善(1979)、p.274-275
北川徹三、爆発災害の解析、日刊工業新聞社(1980)、p.164-166
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死者数 |
3 |
負傷者数 |
7 |
物的被害 |
圧縮機室大破、分解ガスおよび空気圧縮機、タービン類焼損など.付近半径6km以内の民家162戸で窓ガラスなど破損 |
被害金額 |
約3億円(N社T工場爆発事故調査報告書) |
分野 |
化学物質・プラント
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データ作成者 |
土橋 律 (東京大学大学院 工学系研究科 化学システム工学専攻)
田村 昌三 (東京大学大学院 新領域創成科学研究科 環境学専攻)
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