事例名称 |
製油所ガス化脱硫装置において不適切な工事によるLPGの漏洩火災 |
代表図 |
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事例発生日付 |
1991年11月25日 |
事例発生地 |
神奈川県 川崎市 |
事例発生場所 |
製油所 |
事例概要 |
1991年11月23日、神奈川県の製油所で減圧残渣のガス化脱硫装置のLPG水洗塔で液面計下部取り出しノズルにピンホールが発生した。運転を停止せずに出来る工法としてボックスイン方式で溶接工事を行った。25日に開口部が突然拡大して、大量のLPGが噴出、溶接火花により着火した。 工法の選択と管理が問題と考える。 |
事象 |
製油所の減圧残渣のガス化脱硫装置のLPG水洗塔の工事において火災が起こった。同塔の塔底液面計下部取り出しノズルの短管にピンホールが発生した。運転を継続したままでの応急補修としてボックスイン工法と名付けた方法で補修工事中に、ピンホール箇所の開孔部が拡大し、水洗塔内の高圧ガスである分解ガス(主にLPG)が噴出して、電気溶接の火花により着火し火災になった。安全対策として、コンデンセート水を塔底部に注入し、開口部より上部まで水でシールしていたが、水とLPGが一緒に噴出した。 運転条件は1.4MPsG、38℃であった。 ボックスイン工法: 漏洩部を含む配管を、外側から一回り大きな配管で包み込んで、追加した外側の配管で漏洩を止める工事方法で、多分発災社独自の命名であろう。図2参照 コンデンセート水: 水蒸気が凝縮してできた水 |
プロセス |
製造 |
単位工程 |
設備保全 |
単位工程フロー |
図3.単位工程フロー
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物質 |
LPG(liquefied petroleum gas) |
事故の種類 |
漏洩、火災 |
経過 |
1991年11月23日10:40頃 製造課運転員が定期巡回点検中、水洗塔下部の液面計接続配管から漏れを発見した。 午後 応急補修方法を検討した。水シール可能と判断し、ボックスイン方式による溶接補修方法とした。 20:00頃 塔下部に高圧水を送り込み、漏洩部を含め水シールして、ボックスインの取り付け工事開始を開始した。 11月24日02:30頃 外周ボックスの取り付けが完了したが、水漏れがあった。 10:30頃 2回目のボックスイン補修工事を開始した。 16:00頃 補修完了したが溶接部に漏洩有った。 11月25日10:20頃 3回目のボックスイン取り付け工事を開始した。 14:40 火災が発生した。 14:50 装置緊急停止を行った。 |
原因 |
当該配管の板厚は内外からの腐食により著しく薄くなっていたところに、水シール及び溶接補修を繰り返し実施したことから、表面に付着していたスケールが剥離、漏洩部の開孔が突然拡大し、噴出して気化したLPGに溶接火花が着火したものと推定される。一次ボックスで漏れ、二次、三次とぐずぐずと工事が延びていったのも原因の一つだろう。 |
対処 |
1.装置の緊急停止 2.初期消火活動 |
対策 |
1.漏洩防止(材質検査強化、腐食防止等) 2.管理体制の強化(機器検査データを直ちに設備に生かす) 3.保安教育の強化(協力会社員も含め) 4.補修方法の改善 5.装置の設備改善 |
知識化 |
1.装置を停止しないで火気工事を行うには工事方法と周辺状況を十分に調査し、実施中も十分な安全対策が必要になる。 2.工事状態が不良の時は、途中で工法を変える等の判断も必要である。 |
背景 |
1.配管の腐食 ・配管の材質が設計のSUS304ではなくSTPG38相当が使用されていた。 ・ステンレスバルブの両端に炭素鋼配管を接続したため局部電池が形成され腐食を促進した。 ・防食塗装がされていなかった。 2.工事方法不適切 ・シール水の上に凝縮したLPGが溜まるため、工事時間を4時間までとしたにもかかわらず、ずるずると8時間半工事をしていた。液面は液面計40%で管理していたので、水の液面が下がっていたと思われる。 ・補修部の強度確認が不十分であった。開孔部付近は肉厚測定もできず、腐食状況も分からない状況で、僅か長さ170mm程度のところで何度も溶接を繰り返した。 工事期間を短くし、経費を少なくするために工事方法の選択に無理があったと推測される。 |
データベース登録の 動機 |
腐食から漏洩火災に至った例 |
シナリオ |
主シナリオ
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価値観不良、安全意識不良、リスク認識不足、誤判断、誤認知、錯覚・見誤り、組織運営不良、運営の硬直化、工期最優先、計画・設計、計画不良、工事計画不良、破損、減肉、腐食、破損、大規模破損、漏洩、二次災害、損壊、火災、身体的被害、死亡、身体的被害、負傷
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情報源 |
高圧ガス保安協会、高圧ガス保安総覧(1992)、p.171-173,186-187
高圧ガス保安協会、石油精製及び石油化学装置事故事例集(1995)、p.67-75
川崎市消防局 吉田末男、危険物事故事例セミナー(1993)、p.39-45
川崎市消防局予防部保安課、川崎市コンビナート安全対策委員会資料
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死者数 |
1 |
負傷者数 |
1 |
物的被害 |
計装及び照明設備一部焼損.混合ガス0.75トン |
被害金額 |
130万円(川崎市コンビナート安全対策委員会資料) |
マルチメディアファイル |
図2.補修図
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分野 |
化学物質・プラント
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データ作成者 |
土橋 律 (東京大学大学院 工学系研究科 化学システム工学専攻)
田村 昌三 (東京大学大学院 新領域創成科学研究科 環境学専攻)
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