事例名称 |
エチレンプラントにおけるドレン弁を開けたまま現場を離れたことによるナフサの火災 |
代表図 |
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事例発生日付 |
1992年12月15日 |
事例発生地 |
茨城県 鹿島町 |
事例発生場所 |
化学工場 |
事例概要 |
1991年12月15日にエチレン製造装置の分解炉のデコーキングの準備作業中、配管内残留物を確認のため、ドレンバルブを微開にした。水しか出なかったので、バルブを開のままで現場を離れた。その後残留ナフサが漏洩し、火災が発生した。このような作業を実施した背景は以下の通り ・内部残留物の軽視 ・デコーキング作業手順書不備(手順が明確でなく、今回は通常と異なる作業を行った。) ・エタン配管の調整弁の取り付け位置不適切(液の溜まりやすい構造) ・慣れた作業として甘く見た。 |
事象 |
エチレンプランの分解炉でデコーキング作業準備中に火災が起こった。分解炉へのエタン供給配管内の滞留物確認のためドレン弁を「開」にした。水だけが出たので、報告のため現場を離れた。そのうちに、内部に滞留していたナフサが漏れ、真下にあたる炉高温部に飛散し着火した。なお、分解炉は複数基あり、原料は外部から購入するナフサのなどとエチレン装置で福生するエタンの2種類が日本では普通である。 デコーキング: スチーム-空気混合ガスで分解管内壁に付着したカーボンを燃焼除去する作業 |
プロセス |
製造 |
単位工程 |
設備保全 |
単位工程フロー |
図2.単位工程フロー
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図3.単位工程フロー
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物質 |
ナフサ(naphtha) |
事故の種類 |
漏洩、火災 |
経過 |
1992年12月14日10:50 デコーキング準備のため、当該炉向けエタンの供給を停止した。 15日10:00 ナフサ供給を停止し、スチームパージを開始した。 15:00 ナフサ配管に仕切板を挿入した。 16:00 直の交替があった。 エタン配管のパージ未了が申し送られた。 エタン配管のパージ確認のため、エタン配管のドレン弁を開、炉直近弁を閉としてドレン確認作業を指示した。 16:30頃 エタン配管のスチームパージを開始した。 16:48 ドレン弁を1/4回転開けてパージ状況を確認した。 ドレン水のみ出たのでパージ良好と判断し、弁はそのままで係員は状況報告のため移動した。 16:50 火災が発生した。直ちに蒸気元弁を閉とした。 16:52 当該炉および隣接炉の緊急シャットダウン操作を実施した。 当該のドレン弁からの出火を確認した。 17:50 耐火服着用の上、エタン配管の上流側弁を閉とした。 18:07 鎮火を確認した。 |
原因 |
ヒューマンエラーによる火災事故である。残留ナフサが出るとは思わずにドレン確認作業を行ったところ、予期していたとおりに水が出た。これでドレン切り終了と思い込み、ドレン弁を開いたまま現場を離れた。その後で、滞留ナフサが漏洩し、高温のフランジに接触して着火した。完全にドレンが出切るまで、バルブ開の状態で現場は離れてはならない原則が守られていない。 |
対処 |
緊急停止作業を実施した。 社内防災本部設置し、消防隊が現地待機した。 耐火服を着用し、ドレン弁の上流弁を閉止し漏洩を停止させた。 |
対策 |
1.申し送り徹底 2.安全教育 3.当該作業手順書見直し 4.エタン配管調整弁A2の移設 5.点検及び点検結果に基づく補修等の実施 |
知識化 |
作業が完結しないうちに現場を離れて事故になった例はいくつもあるものと推定される。特に水と炭化水素類が一緒にある場所でのドレン切り作業で水が先に出てくるのは当然で、水が出なくなってからが問題である。 |
背景 |
残留ナフサが出るとは思わずにドレン確認作業を行ったことが最大の事故要因であり、これに至った要因として以下が考えられる。 (1)内部残留物の軽視(ドレン切りの最終を確認せず現場を離れた。) (2)デコーキング作業手順書不備(手順が明確でなく、今回は通常と異なる作業を行った。) (3)エタン配管の調整弁の取り付け位置不適切(液の溜まりやすい構造) 上記の(1)は作業員の気の緩みあるいは慣れの問題であり、管理する側にも責任がある。(3)は不適切な位置にあることを気がつかなかったか、あるいは知っていても実績から問題視していなかったと考えられる。 |
データベース登録の 動機 |
ドレンバルブの不適切な操作で火災発生の例 |
シナリオ |
主シナリオ
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不注意、注意・用心不足、作業者不注意、組織運営不良、運営の硬直化、教育・訓練不足、組織運営不良、管理不良、作業管理不良、不良行為、規則違反、安全規則違反、二次災害、損壊、火災、組織の損失、経済的損失、直接損害額4000万円
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情報源 |
高圧ガス保安協会事故検証解析委員会M油化(株)K事業所、国内事故報告書 第2エチレンプラント火災事故(1993)
高圧ガス保安協会、高圧ガス保安総覧(1993)、p.195-197,204-205
川崎市危険物安全研究会、今すぐ役に立つ 危険物施設の事故事例集(FTA付)(1997)、p.29-31
消防庁、危険物に係る事故事例-平成4年(1993)、p.33、50-53
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物的被害 |
弁類,配管,架構部材,保温材(ケイカル,板金),塗装(炉壁,架構),計装機器,ケーブル,電気ケーブル焼損.ナフサ+水 焼失(量不明). |
被害金額 |
4000万円(危険物に係る事故事例) |
分野 |
化学物質・プラント
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データ作成者 |
土橋 律 (東京大学大学院 工学系研究科 化学システム工学専攻)
田村 昌三 (東京大学大学院 新領域創成科学研究科 環境学専攻)
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