事例名称 |
流動接触分解装置の膨張タービンが過速度回転で破壊したことによる一酸化炭素の漏洩火災 |
代表図 |
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事例発生日付 |
1994年02月25日 |
事例発生地 |
神奈川県 川崎市 |
事例発生場所 |
製油所 |
事例概要 |
流動接触分解装置の動力回収部で圧力調整弁が不具合になった。同弁の不具合の調整を運転を止めずに保安装置解除して実施した。圧力調整弁の開度計調整ミスのため自動運転時に調整弁が全開となり、発電機の解列、膨張タービンの破損、火災発生に至った。 |
事象 |
製油所のガソリン原料製造設備の流動接触分解装置で一酸化炭素(CO)ガスの火災が発生した。同装置では、大量に発生するCOガスの圧力を有効利用して発電する動力回収装置がある。その圧力を電力に変換する膨張タービンへのCOガスを制御する圧力調整弁の制御機構が不具合となった。その調整後、圧力調整弁の作動を自動に復帰した瞬間に、圧力調整弁が全開となり、発電量が急増した。電気系統保護のため、発電機が解列した。そのため膨張タービンの負荷がなくなり、回転数が異常に上昇し、膨張タービンが破損、飛散し、COガスが着火、発災した。また、飛散した部品が、膨張タービン出口配管、パイプラック上の危険物配管等を折損し出火した。 |
プロセス |
製造 |
単位工程 |
設備保全 |
単位工程フロー |
図2.装置概要図
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物質 |
一酸化炭素(carbon monoxide)、図3 |
事故の種類 |
漏洩、火災 |
経過 |
1994年2月22日 発電機の出力が不安定になった。調査の結果COガスを供給する圧力調整弁の制御機構の不具合だった。 25日昼頃 圧力調整弁をマニュアルにし、制御機構の調整をした。調整後制御機構を戻し、圧力調整弁の操作をマニュアルから自動にしたら圧力調整弁が全開になった。 25日19:25 発災した。圧力調整弁の全開から直ぐと思われる。 26日03:24 鎮火を確認した。 |
原因 |
1.整備点検の際に制御機構へのバルブ開度の入力をする開度計の調整を間違えたたため、圧力調整弁を自動に復帰した際、開度設定値に収束せず、全開となった。 2.開度計は静電容量式でやや特殊な開度の検出法を取っている。2枚の同一の半円盤状の板を同一の回転軸に接続する。一つは固定され、他の一つは360度回転できる。回転半円盤と固定半円盤が重なった部分の面積(角度でも同じ)を電気的に検出して、開度に換算する。本来の設定は開度”0”の時、重なり部分を生じない位置に回転半円盤をおき、開度”100%”になったら、両者が全部重なるように設定する。すなわち0~100%の開度に対応して180度回転側の半円盤が回転する。ところが、調整時の設定は開度”0”で半円盤全部が重なり、開度”100%”で重なり部分を生じないようにした。開度と面積が正の相関だったのを、負の相関に変えた。制御の論理回路には手を付けていないので、調整弁が全開になった。 |
対処 |
1.装置の緊急停止 2.自衛消防隊・共同防災隊の出動 |
対策 |
1.運転保安上の対策(運転中の保安装置の解除禁止、言換えれば保安装置の解除時の運転停止、保安管理の役割分担の明確化) 2.設備上の対策(調整弁の開度計の改善、、緊急遮断機構の改善) 3.補修終了時の確認作業の徹底 |
知識化 |
調整ミスにより装置が制御不能におちいる可能性のある装置の調整、分解、組み立てには慎重を期し、十分なチェックを入れるべきである。さらに重要なことは運転用に使う前に基本機能の確認をしなければならない。 特に運転中の保安装置の解除は重大な事故につながる。 |
背景 |
1.開度計の原理を理解しないで調整をした。 2.調整弁を自動に戻す前に、バルブ開度と開度計の信号のチェックをしていない。計器の補修後の復旧時の基本作業である。手順の無視である。 調整時のミスがなければ問題は起こらなかったが、人間のやる仕事には何処かで間違いが起こることはやむを得ない。2番目の確認作業を怠ったことが最大の要因であろう。調整した側、運転側の両方が立ち会って一緒にやるべき作業である。 設計面では、補修時に間違いやすい機構の計器を選択すべきではなかった。 |
データベース登録の 動機 |
圧力調整弁入力機構の調整不良により制御不能に陥った事故例 |
シナリオ |
主シナリオ
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価値観不良、安全意識不良、リスク認識不良、不注意、注意・用心不足、作業者不注意、計画・設計、計画不良、工事計画不良、使用、保守・修理、修復、機能不全、ハード不良、制御システム不良、不良現象、機械現象、過速度回転、破損、大規模破損、破裂、二次災害、損壊、火災、組織の損失、経済的損失、直接被害額11億円
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情報源 |
松尾茂美、危険物事故事例セミナー、p.29-37(1996)
川崎市消防局予防部保安課、川崎市コンビナート安全対策委員会資料(1994)
全国危険物安全協会、危険物施設の事故事例‐Case 100‐(1999)、p.4
消防庁、危険物に係る事故事例-平成6年(1995)、p.28、64-66
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物的被害 |
流動接触分解装置エリアの一部621平方m焼損.飛散物が最大750mの範囲に飛散.タービン,空気圧縮機,潤滑油設備,関連配管,加熱炉,建屋延267平方m被害.ナフサ等約58.85キロリットル,燃料ガス,排ガス等約2207立方m被害. |
被害金額 |
10億円(危険物に係る事故事例)(川崎市コンビナート安全対策委員会資料) |
マルチメディアファイル |
図3.化学式
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備考 |
WLP関連教材 ・プラント機器と安全-設備管理/回転機器の安全 |
分野 |
化学物質・プラント
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データ作成者 |
土橋 律 (東京大学大学院 工学系研究科 化学システム工学専攻)
田村 昌三 (東京大学大学院 新領域創成科学研究科 環境学専攻)
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