事例名称 |
重質油脱硫分解装置の水素ガス配管ドレン弁の応力腐食割れによる水素ガスの漏洩と火災 |
代表図 |
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事例発生日付 |
1999年07月03日 |
事例発生地 |
神奈川県 川崎市 |
事例発生場所 |
製油所 |
事例概要 |
1999年7月3日、製油所で定常運転中の重質油脱硫分解装置の水素加熱炉出口配管から突然水素が漏洩し火災になった。定期修理工事後のポリチオン酸洗浄の希釈水がドレンノズルに溜まった。使用した工業用水に起因する塩素濃度が元々高かった上、運転開始後の高温により工業用水中の塩素が濃縮され、応力腐食割れを起こし、水素が漏洩した。静電気火花あるいは熱による発火により火災となった。 |
事象 |
製油所の重油脱硫装置で火災事故が起こった。定期修理後の立上げから257時間経過して、定常運転中だった。水素加熱炉出口緊急遮断弁上流のブリーダー弁取出し配管に応力腐食割れが発生した。水素ガスが漏洩、着火し火災となった。 図2参照 |
プロセス |
製造 |
単位工程 |
設備保全 |
単位工程フロー |
図3.単位工程フロー
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物質 |
水素(hydrogen)、図4 |
事故の種類 |
漏洩、火災 |
経過 |
1999年7月3日22:15 従業員が定期巡回中、重質油脱硫分解装置の水素ガス加熱炉(F‐102)出口緊急遮断弁付近より火炎が出ているのを発見し、直ちに計器室に連絡した。 22:17 装置の緊急停止手動操作を行った。(加熱炉「F‐102」消火) 22:27 119番通報、並びに構内一斉放送により自衛防災組織を設置した。 22:35 自衛消防隊による消火活動を開始した。公設消防隊が到着した。 23:56 消火活動を停止した。 7月4日00:14 緊急遮断弁(EBV)と逆止弁の間の配管保温部から再び炎が上がっているのを発見した。 00:18 スチームによる消火作業を開始した。 01:01 鎮火を確認した。 |
原因 |
1.定期修理の末期に、水素化反応器の保護のためポリチオン酸水溶液で中和洗浄する。反応器がアップフローのため、使用済みのポリチオン酸水溶液を入り口側配管(反応器底部側)のドレン弁より抜き出した。このときにポリチオン酸水溶液がドレン弁より上流の水素加熱炉側にある逆止弁の底部に残った。運転開始時に残っていたポリチオン酸水溶液が反応器入り口配管のドレン部に溜まった。高温の水素化脱硫ガスが導入されたことにより、水分が蒸発し塩素が濃縮した。ブリーダー部の温度も応力腐食割れが発生し得る温度まで上昇し、応力が高い部分で応力腐食割れが発生し、水添脱硫ガスが漏洩した。この漏洩したガスは着火エネルギーの低い水素を主成分としたガスであり、噴出帯電を生じた際の静電気火花による着火、もしくは高温となったガスが大気中に漏洩した際の発火により、発災したと推定する。 2.発災部の材質はポリチオン酸による応力腐食割れが考えられるオーステナイト系ステンレス鋼が使用されていた。通常の運転では十分な材質であり、ポリチオン酸洗浄に純水を使っていれば問題は生じない。材質の選定は問題にされていない。 |
対策 |
(1)配管内の塩素濃度を下げるため、ポリチオン酸水溶液を作る時の希釈水を、現状の工業用水から純水に変更する。(工業用水中の塩素濃度20~30ppm、純水の塩素濃度0.1ppm以下) (2)加熱作業前にドレンに溜まった水を抜出し、その後の運転中に水分の凝縮を防止するためスチームトレースを強化する。 (3)ガセットは、発生する引張り応力を低減するため、熱伸びを拘束しない構造に改造する。 |
知識化 |
水素配管の応力腐食は直ちに災害につながるため十分な管理が必要である。工業用水など河川水に近いものは塩素濃度が高いことがある。そのような塩素濃度が高いものを使っての処理は避けることが望ましい。 |
背景 |
1.脱硫分解反応器は定期修理後のスタートでポリチオン酸処理をすることがある。そのポリチオン酸の希釈に工業用水を使用したため、ドレン弁ノズルにたまったポリチオン酸水溶液中の塩素濃度が高く、運転開始後の高温でさらに塩素が濃縮され、応力腐食割れを起こした。塩素による応力腐食割れが懸念されるところに工業用水を使用した水管理が基本要因である。 2.応力の発生はドレン配管のサポートであるガセットが運転開始後の温度上昇による熱膨張に対応していないために生じた。サポートの設計ミスであろう。 |
データベース登録の 動機 |
水素配管の応力腐食による漏洩火災事故の例 |
シナリオ |
主シナリオ
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価値観不良、安全意識不良、リスク認識不良、調査・検討の不足、仮想演習不足、想像力不足、不注意、注意・用心不足、企画者不注意、計画・設計、計画不良、洗浄計画不良、使用、保守・修理、後始末不良、不良現象、化学現象、濃縮、破損、破壊・損傷、割れ、二次災害、損壊、漏洩・火災
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情報源 |
川崎市消防局予防部保安課、川崎市コンビナート安全対策委員会資料(1999)
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物的被害 |
配管周囲の保温外装材焼損.水添脱硫用ガス約74kg |
被害金額 |
20万円(川崎市コンビナート安全対策委員会資料) |
マルチメディアファイル |
図2.状況図
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図4.化学式
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分野 |
化学物質・プラント
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データ作成者 |
土橋 律 (東京大学大学院 工学系研究科 化学システム工学専攻)
田村 昌三 (東京大学大学院 新領域創成科学研究科 環境学専攻)
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