失敗事例

事例名称 エチレン製造装置におけるエタン分解炉出口配管からの分解ガスの漏洩による火災
代表図
事例発生日付 1985年05月09日
事例発生地 神奈川県 川崎市
事例発生場所 化学工場
事例概要 1985年5月9日 エチレン製造装置のエタン分解炉スタートで、エタンの張り込みを開始して約2時間後に配管折損により高温の可燃性ガスが空気中に漏洩し、発火した。配管の熱膨張を逃がすために設けられたガイドスリーブ内にレンガ屑が詰まっていたため、配管の伸びを逃す事が出来ずに、配管に亀裂が生じ折損した。
事象 エチレン製造装置内のエタン分解炉とクエンチボイラー間の配管エルボの溶接部が折損し、分解ガスが漏洩出火した。
プロセス 製造
単位工程 設備保全
単位工程フロー 図3.単位工程フロー
物質 エタン分解ガス(エタン、エチレン、水素等)(ethane cracking gas)
事故の種類 漏洩、火災
経過 本装置は、1985年3月まで定期修理のため運転を停止し、この際、発災に係わるエタン分解炉の内壁の補修を行った。3月中旬から運転を再開した。
5月7日~8日 エタン分解炉のデコーキングを行った。
14:00頃 原料エタンの張込みを開始した。
16:20頃 計器室のDDCが炉出口温度の異常を表示したため、オペレーターが現場に確認に行ったところ、クエンチボイラー入口配管から炎が出ているのを発見した。
16:25頃 スチーム噴射により消火
 デコーキング: 分解管内に生成したカーボンの除去(デコーキング)を行うため、分解管内部にスチームと空気を注入して燃焼・除去を行う作業。
 DDC:Direct Digital Controllerの略でコンピュータを使った計装システムの形式の一つ。現在ではやや古い形式である。
原因 1.出火原因 
 配管溶接部亀裂箇所から温度750℃の分解ガスが漏洩したため、主成分であるエタン(発火点515℃)、エチレン(同490℃)、水素(同530℃)等が発火した。
2.折損原因 
 本運転に伴う昇温によるクエンチボイラー及びエタン分解炉輻射管の熱膨張(伸び)を、ガイドスリーブ内にレンガ屑が詰まっていたため、ガイドスリーブ内で吸収することができなかった。そのため輻射管を上方に押し上げる結果となり、分解炉とクエンチボイラー間の連絡配管に過大の曲げ応力が働いて、同配管溶接部が亀裂折損したものと推定される。図2参照
 ガイドスリーブ: 運転時800℃以上になる縦長の分解管の熱による伸びの吸収と、振動防止のために分解管最下端に適当な長さの丸棒を溶接し、パイプの中に納める。そのパイプを言う。そのガイドスリーブ内は熱伸び分を伸ばすためにフリーにする必要がある。なお、分解管の荷重は上部で支持する。
対処 1.計器室に通報した。
2.漏洩箇所へのスチームの吹きつけによる消火をした。
3.当該炉の緊急停止作業を行った。
4.窒素ガスの封入を行った。
対策 定期修理時および改造時には、ガイドスリーブ下部のキャップを外して点検し詰まりの無いことを確認する。
知識化 1.ガイドスリーブ内のレンガ屑が熱膨張吸収の機能を奪い事故に至った。このような部分の点検、清掃も重要である。
2.高温の熱膨張対策として各種の機械的対策が取られるが、一つ一つの意味を理解し、それぞれに適したメンテナンスをすることが重要である。
背景 運転時高温になる配管の熱延び代を保証するガイドスリーブがレンガ屑で詰まり、配管の延びを阻害した。小さいが重要な役割を持つ部品の管理が不十分で起こした事故である。
よもやま話 ☆ 配管のサポートなど配管の熱膨張を逃したり吸収したりする配管部品は数多い。一見見栄えのしない部品であるが、装置の安全上は重要な役割を果たしている。
☆ 12炉ある分解炉の1炉で、しかも運転経験の長い装置で起きている。ガイドスリーブの機能も知っている。魔が差したと思えるような失敗であろう。こういう状況でも失敗することがあることを記憶した方が良いのかも知れない。
☆ 定期修理が3月に終了、5月に事故が発生している。しかも、デコーキングの事故で発災している。定期修理から事故に至るまでの間は通常に運転していると考えられる。何か違ったことがあったのだろうか。
データベース登録の
動機
熱膨張で配管折損し漏洩燃焼した事故例
シナリオ
主シナリオ 価値観不良、安全意識不良、リスク認識不良、組織運営不良、管理不良、管理の緩み、不注意、理解不足、リスク認識不足、使用、保守・修理、清掃不十分、破損、破壊・損傷、熱伸び吸収できずに亀裂、二次災害、損壊、漏洩
情報源 高圧ガス保安協会、高圧ガス事故の現状 昭和60年の事故(1986)、p.18-19、61-62
高圧ガス保安協会、石油精製及び石油化学装置事故事例集(1995)、p.105-108
物的被害 計装用電気配線及び断熱材若干焼損.分解ガス約1.2kg焼損
マルチメディアファイル 図2.状況図
分野 化学物質・プラント
データ作成者 土橋 律 (東京大学大学院 工学系研究科 化学システム工学専攻)
田村 昌三 (東京大学大学院 新領域創成科学研究科 環境学専攻)