事例名称 |
RIM原液製造装置の爆発・火災 |
代表図 |
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事例発生日付 |
1996年04月29日 |
事例発生地 |
岡山県 倉敷市 |
事例発生場所 |
化学工場 |
事例概要 |
RIMの原料液製造装置で、原料液配合条件変更後の4回目の操業でタンクの爆発事故が起こった。主原因として次の2点が指摘されている。 1.新しい条件下では重合反応を起こすことを見落とした。 2.コンピューターでの操業条件から外れた場合の適切な対応を従業員が取れなかった。温度上昇時の挙動は本社では掴んでいたが、工場に伝達されていなかったため、温度上昇時の対応の教育がなされていなかった。 RIM:Reaction Injection Moldingの略。プラスチックの成型品を作るために、型を作り、そこにモノマーを流し込んで、型の中で重合させて一体成型品を作る方法である。代表的なものは、DCPD(ジシクロペンタジエン)樹脂で大型のものが作られている。 |
事象 |
RIM原液製造装置では2種類の原料配合液を製造し、出荷先でその2種類を混合させ、RIM製品を完成させる。4月から原料配合液の調合法を2種とも変更した。変更した方法での4回目の原料配合液Aを保管していた。配合から85時間後に爆発火災が起こった。 |
プロセス |
製造 |
単位工程 |
その他 |
単位工程フロー |
図2.単位工程フロー
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物質 |
ジシクロペンタジエン(dicyclopentadiene)、図3 |
ジエチルアルミニウムクロライド(diethyl aluminium chloride)、図4 |
1,3-ジクロロ-2-プロパノール(1,3-dichloro-2-propanol)、図5 |
四塩化ケイ素(silicon tetrachloride)、図6 |
事故の種類 |
爆発・火災 |
経過 |
1996年4月25日16:00すぎ 触媒調製槽に各種原料を投入し、原料配合液の調製を行った。使用予定は30日だった。貯蔵タンクはコンピュータで温度制御されていた。 26日12:50 配合液Aを貯蔵したタンクの温度アラームが鳴った。 通常の管理温度は55℃であり、60℃でHアラームが鳴った。ボード操作でアラームだけ消した。 13:09 65℃のHHアラームが鳴った。温度を確認しアラームだけ消した。 20:47 タンク温度は63℃に下がった。さらに温度は低下を続け、60℃以下になった。 27日12:02 再び60℃になりHアラームが鳴った。温度の確認をしてアラームだけを消した。 12:21 65℃になり、HHアラームが鳴った。温度確認後、アラームを消した。 29日02:07 タンク温度が105℃を越えたことを示すIOPアラームが鳴った。現場温度計の指示を確認した。 02:12 タンク温度を下げる努力をしたが、下がらないので様子を見ることにして、02:30頃から、一人は仮眠に入った。その後も温度は下がらなかった。 03:32 起きていた一人が巡回中、当該タンクが爆発した。巡回していた作業員は被災した。 Hアラーム: high alarmのこと。測定値が設定値より高い側で異常の兆候を示したときに出す警報アラーム HHアラーム: Hアラームを超えて危機的状況のときに出すアラーム。古くはインターロックに直結したことが多い。現在でもHHアラームでインターロック作動にする例もある。 |
原因 |
条件変更後の4回目の配合時の原料配合液を保管中に事故が起こった。触媒調製槽で前回の残りの液を残したまま新しい原料と触媒を投入しての調製法に変更した。従来は残液は使用しなかった。事故後の研究で、”残液と新たに投入する原料との反応でカチオン種が発生する。追加調製を繰り返すことによりカチオン種によりカチオン重合が発生して触媒液の温度が上昇する。すると、さらに反応が進み液温上昇が加速され、液温上昇により配合液の体積が膨張する”ことが分かった。要するに新規調製法では異常反応が起きやすいことを、見落とした。そのため、通常の状況しか想定しなかったコンピューターでの温度制御が十分に働かなかった。さらに、温度上昇に対して適切な対策を講じなかったために暴走反応が起こり、摂氏100度以上に達し、内容物が噴出した。 |
対処 |
自衛消防(3点セット)及び公設消防 |
対策 |
1.古い液を残しての新しい調製法を以前の方法に戻す。 2.温度アラーム及びアラーム解除の適正化。 3.従業員への教育(化学反応における温度管理の重要性の周知)。 |
知識化 |
1.条件変更時にその影響を十分に把握していないと危険である。特に反応に関しては注意が必要である。 2.情報伝達、特に悪い情報を正確に伝えることが重要である。 |
背景 |
条件変更に対する検討不足が基本要因であろう。温度上昇に対し放置した原因は、この配合液が”温度低下では品質不良になる”が運転員の常識になっていたことである。この触媒の温度上昇時の挙動について本社では把握していたが、工場には伝わっていなかったため、温度上昇に対しては問題視していなかった。したがって、情報の連絡体制の欠陥も問題である。 |
よもやま話 |
☆ 本社では、本反応と温度との関係について実験までしていたが、その情報が現場まで伝わっていない。 |
データベース登録の 動機 |
触媒調製法を変更した後の運転管理が悪く対策が後手に回った例 |
シナリオ |
主シナリオ
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組織運営不良、運営の硬直化、情報連絡不足、価値観不良、安全意識不良、安全教育・訓練不足、組織運営不良、管理不良、作業管理不良、非定常行為、変更、作業内容変更、不良行為、規則違反、安全規則違反、不良現象、化学現象、異常反応、二次災害、損壊、爆発、身体的被害、負傷、組織の損失、経済的損失、損害額2500万円
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情報源 |
中央労働災害防止協会資料
消防庁、危険物に係る事故事例-平成8年(1997)、p.114-117
中央労働災害防止協会安全衛生情報センター、労働災害事例 No.100127、中央労働災害防止協会ホームページ
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死者数 |
0 |
負傷者数 |
1 |
物的被害 |
RIM原液製造プラント触媒調製槽及び建屋スレート等が飛散焼損(触媒調製槽上部鏡出部分破裂,焼損.RIM配合質焼損),周囲の建物の窓ガラスやスレート破損.スレート等の飛散は半径50mの範囲に,機器の一部は隣接事業所まで飛翔(隣接建物の屋根,側壁破損). 調製槽内容物(危険物第4類第2石油類(0.3M EHAC)ドラム缶34本被害. |
被害金額 |
2,500万円(消防庁による) |
マルチメディアファイル |
図3.化学式
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図4.化学式
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図5.化学式
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図6.化学式
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分野 |
化学物質・プラント
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データ作成者 |
古積 博 (独立行政法人消防研究所)
田村 昌三 (東京大学大学院 新領域創成科学研究科 環境学専攻)
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