事例名称 |
硝酸の誤注入によるトリエタノールアミンタンクの破裂 |
代表図 |
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事例発生日付 |
1996年01月25日 |
事例発生地 |
京都府 宇治市 |
事例発生場所 |
電子部品工場 |
事例概要 |
タンクローリーからの受入時に硝酸をアルカリのタンクに移送し、激しい発熱反応でタンクの内圧が上昇し破裂した。混触危険物質を取り扱う施設では、ヒューマンエラーによる誤混合を防ぐための本質安全設計や、化学物質に関する安全教育などが必要である。 |
事象 |
タンクローリーで運んできた硝酸をタンクに注入していたが、誤って隣接するトリエタノールアミン(TEA)タンクに硝酸を受入、タンクが破裂した。 |
プロセス |
貯蔵(液体貯蔵設備出荷・受入) |
物質 |
トリエタノールアミン(triethanolamine)、図2 |
硝酸(nitric acid)、図3 |
事故の種類 |
破裂 |
経過 |
1. 硝酸のタンクローリーの運転手が誤ってTEA用の注入口に接続した。 2. 工場の薬品受入担当は硝酸タンク元の電磁弁を開け受入を開始した。 3. 運転手は硝酸タンクの液面が上昇せず、TEAタンク液面が上がっているのを見つけた。 薬品受入担当者に連絡し、ホースを外し、配管内の硝酸を排出した。 4. 運転手が薬品受入担当に”TEAタンクに硝酸が入ったが大丈夫か”と確認したが、TEAタンクの電磁弁は開けなかったので、硝酸は入っていないと判断した。 5. 硝酸注入口に再接続し注入した。 6. 硝酸タンクの受入中にTEAのタンクから発煙し、5分後にタンクが破裂した。 飛散物で隣接タンク11基が破損し、薬品類がタンクヤード内に流出した。 |
原因 |
1.TEAに硝酸が混ざり発熱的に反応が起こった。液温が上昇し、窒素酸化物のガスが発生して内圧が上昇し、タンク破裂に至った。 2.運転手の勝手な判断と工場側の作業員間の連絡ミスが重なって事故になった。 (1) 運転手はこの工場には今回が初めての搬入だった。硝酸のノズルは向かって左から2番目と教えられていた。硝酸のノズルはステンレス製と思いこんでいたらしく、教えられたノズルが塩ビ製だったので、勝手にステンレス製ノズルに接続した。 (2) TEAタンクの元弁は開けなかったが、前日の作業で別の作業員が元弁のバイパス弁を開け、そのままで放置した。そのことを薬品受入担当に連絡がなかったか、忘れるかしていた。そのため、TEAの受入配管だけでなくタンクに硝酸が入った。また、タンク液面の上昇を確認せずに、受入無しと判断するというミスを犯した。配管の滞留分の硝酸だけを抜いたため、タンクに入った硝酸はそのままでTEAと反応した。 |
対策 |
行った作業の連絡と確認を確実に行うことにつきるが、さらに以下のことも行う。 (1) 特定化学物質等作業主任者が受け入れに立ち会う。 (2) 薬品ごとにフランジの形状を変える。 (3) 注入口付近に照明を取り付ける。 (4) 誤注入による事故への対処法を定め、訓練を行う。 とは言え、誤注入したらTEAと硝酸の反応は始まるだろうから、誤注入しない、させないようにすべきである。 |
知識化 |
混触危険性を有する化学物質の事故の多くは、ヒューマンエラーと安全知識の不足によるものである。 |
背景 |
慣れた作業であるので、注意力に欠けていた。基本的には混触禁止の2物質のタンク受入配管が近接しているにも拘わらず、危険な設備だとの意識もなかったと推測する。本来すべき連絡が行われず、受入のためのラインアップの確認がなかった。通常行われているローリーからの受入れなどでは、工場側の立合いやラインアップの確認は行われないことが多い。したがって、バイパス弁開の連絡がなかったことが最大の要因である。単なる作業員同士のエラーか全体の気の緩みかは不明である。作業立合いのなかったことを含め、次のことが言える。 (1) 特定化学物質等作業主任が立ち会わなかった。 (2) ホース接続の確認を業者に任せていた。 (3) 照明が乏しかった。 (4) 混触危険物同士のホース接続口が隣接していた。 |
よもやま話 |
☆ 定常的行われるローリーの受入は、受入事業所の合理化のため、立合を省略し運輸会社に任せることがある。経済情勢からやむを得ないのであろうが、安全確保に一抹の不安が残る。 |
データベース登録の 動機 |
誤注入による典型的な混触事故例 |
シナリオ |
主シナリオ
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組織運営不良、管理不良、規律の緩み、手順の不遵守、手順無視、確認を省略、価値観不良、安全意識不良、リスク認識不良、計画・設計、計画不良、安全工学的配慮なし、不良行為、規則違反、安全規則違反、不良現象、化学現象、異常反応、破損、大規模破損、破裂、組織の損失、経済的損失、損害額1億円
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情報源 |
中央労働災害防止協会、災害発生状況の詳細(1996)
中央労働災害防止協会安全衛生情報センター、災害事例 No.789、中央労働災害防止協会ホームページ
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死者数 |
0 |
負傷者数 |
0 |
物的被害 |
貯蔵タンク破裂の衝撃で窓ガラス一部破損。 |
マルチメディアファイル |
図2.化学式
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図3.化学式
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図4.化学式
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分野 |
化学物質・プラント
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データ作成者 |
若倉 正英 (神奈川県 産業技術総合研究所)
田村 昌三 (東京大学大学院 新領域創成科学研究科 環境学専攻)
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