失敗事例

事例名称 ジメチルホルムアミド製造装置の定期修理中の中間タンクでの爆発
代表図
事例発生日付 1990年09月29日
事例発生地 神奈川県 横浜市
事例発生場所 化学工場
事例概要 定期修理のため、事故前日にDMF合成塔の運転を停止し、生成した粗DMFを中間タンクに抜き出し、さらにこれを精製系に送った。このとき中間タンク底部に粗DMF約1kLが残留していた。
事故当日、後日に行う中間タンクの清掃作業に備えてタンク残液の抜き出しを行った。幾つかの指示違反や安全無視の行為があり、タンク内で爆発が起こり、開放されたマンホール近くにいた作業員が気道火傷を負い、入院後死亡した。
直接原因の内、可燃性混合気の存在が考えられる環境で、非防爆のポンプを使用したことが最も重要と思われる。作業手順の不遵守や防爆ではない電動ポンプの使用を認めていることは、作業側の責任より指導をすべき管理・監督者の責任であると指摘できる。
事象 ジメチルホルムアミド(DMF)中間タンクの清掃のため、マンホールを開け、残液をポータブルポンプでドラム缶に抜き出す作業を行っていた。そのとき、タンク内部のガスが爆発し、マンホール正面にいた作業員が被災した。
この作業員は気道火傷で45日後に死亡した。
プロセス 製造
単位工程 設備保全
物質 N,N-ジメチルホルムアミド(N,N-dimethyl_formamide)、図2
水素(hydrogen)、図3
一酸化炭素(carbon monoxide)、図4
ジメチルアミン(dimethylamine)、図5
ナトリウムメチラート(sodium methylate)、図6
事故の種類 爆発
経過 1. 定期修理のため、事故前日の1990年9月25日9時55分にDMF合成塔の運転を停止した。合成塔内の生成した粗DMFを中間タンクに抜き出し、さらにこれを精製系に送った。このとき中間タンク底部に粗DMF約1kLが残留していた。
2. 中間タンクの清掃作業に備えて残液の抜き出しを行った。
9月26日に中間タンクのマンホールを開けて残留している粗DMFを、ポータブルポンプを使用してドラム缶に抜き出す作業を、4人で開始した。このときのタンク内温度は68℃であった。なお、DMFの引火点は58℃である。
3. 開放したマンホールから吸引パイプを挿入し、駆動モータをマンホール上部にボルトで固定してスイッチを入れて1~2分後の16時20分頃、タンク内でガスが爆発し、炎が7m程噴き上がった。
4. マンホール正面にいた作業員が被災し、気道火傷で45日後に死亡した。
原因 多くの判断ミス、指示の軽視が積み重なって発災した。その原因を以下に列挙する。
1.タンクが十分冷却していないにもかかわらず作業を開始した。
2.タンク内は可燃性ガスが充満しているので、窒素希釈していたが、希釈用窒素の停止を定められたタイミングより早めた。
3.ポータブルポンプは防爆型ではなかった。
4.上部のマンホールを先に開けて、側板のマンホールを開ける手順になっていたが、側板のマンホールしか開けていなかったため、換気が不十分であった。
対処 被災者を救急車で病院へ搬送した。
対策 1.当該工場のポータブルポンプを全て空気駆動式とした。
2.安全教育を強化し、特に安全上の重要ポイントのステップは確認を励行するようにした。
知識化 作業員に作業の危険性と安全作業に必要なポイントを十分理解させる必要がある。それだけではなく、安全な作業が行われていることを指導確認するのが管理・監督者の責務であろう。
背景 1.表面的には以下に示す(下請け)作業員のヒューマンエラーとなっている。
(1)作業員の安全意識のレベルが低い。
(2)作業員が作業の危険性に対する知識が十分でなかった。
(3)その結果、作業手順を無視したと考えられる。
2.作業員の入構教育などを通し、一応の教育は行っているが、手順無視などを許容している管理、監督者の責任はもっと大きいと考える。下請け作業者、特に定期修理などで臨時に入構する作業者は化学工場の危険に対し無知である。環境の安全を確保して、安全に工事を行うのは設備管理者、一歩譲っても元請け業者にある。
よもやま話 ☆ 容器内に残った油を抜き取るのに非防爆のポータブルポンプを使用することは考えられない。装置内の電気製品は防爆型のものを採用するのが当然なのに、何故工事での臨時使用だからといって、非防爆型を使うのだろうか。
データベース登録の
動機
定期修理における作業手順不遵守による爆発事故例
シナリオ
主シナリオ 価値観不良、安全意識不良、リスク認識不良、組織運営不良、運営の硬直化、教育・訓練不足、不注意、理解不足、リスク認識不足、計画・設計、計画不良、開放計画不良、不良行為、規則違反、指示書無視、二次災害、損壊、爆発、身体的被害、死亡、気道火傷45日後死亡、組織の損失、経済的損失、タンク損壊他
情報源 消防庁、危険物に係る事故事例-平成2年(1991)、p.70-72
高圧ガス保安協会、石油精製及び石油化学装置事故事例集(1995)、p.194-195
死者数 1
負傷者数 0
物的被害 電動ポンプ焼損
被害金額 8万円(消防庁による)
マルチメディアファイル 図2.化学式
図3.化学式
図4.化学式
図5.化学式
図6.化学式
分野 化学物質・プラント
データ作成者 小川 輝繁 (横浜国立大学大学院 工学研究院 機能の創生部門)
田村 昌三 (東京大学大学院 新領域創成科学研究科 環境学専攻)