事例名称 |
有機過酸化物反応缶の反応の進行状態を間違えて作業したことによる暴走反応による爆発 |
代表図 |
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事例発生日付 |
1992年01月22日 |
事例発生地 |
兵庫県 播磨町 |
事例発生場所 |
化学工場 |
事例概要 |
有機過酸化物1,3-ビス(t‐ブチルペルオキシイソプロピル)ベンゼンの製造において、作業者が、二次反応中をアルカリ洗浄中と思いこんだ。そして、洗浄中にしては温度が低いと思い、70℃の温水をジャケットに投入した。その結果、反応温度が上昇して異常分解反応が生じた。分解ガスが充満し、電気設備等何らかの着火源で爆発炎上した。シフト交代時の引き継ぎが不十分であったために発生した事故と推定される。 |
事象 |
有機過酸化物1,3-ビス(t-ブチルペルオキシイソプロピル)ベンゼンを製造中に分解ガスが発生し、その後爆発炎上した。 |
プロセス |
製造 |
単位工程 |
反応 |
単位工程フロー |
図2.単位工程フロー
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反応 |
酸化 |
物質 |
1,3-ビス(t‐ブチルペルオキシイソプロピル)ベンゼン(1,3-bis(t-butylperoxyisopropyl)benzene)、図3 |
事故の種類 |
爆発、火災 |
経過 |
1992年1月21日 交替勤務の午後番が一次反応を終え、二次反応まで反応を進行させた。 二次反応途中で、深夜勤務番に引き継いだ。 深夜勤務番の担当者は反応缶温度が低いと判断し、反応缶ジャケットに70℃の温水を通水した。 22日01:35 反応缶マンホールから分解ガスが噴出し、何らかの着火源により爆発した。 |
原因 |
ヒューマンエラーと思われる。作業者が、二次反応中をアルカリ洗浄中と思いこんでいた。そのため、洗浄中にしては温度が低いと思い、70℃の温水をジャケットに投入したため、反応温度が上昇して異常分解反応が生じた。そのため、分解ガスが充満し、電気設備等何らかの着火源で爆発炎上した。 |
対処 |
自衛防火組織の消火活動 |
対策 |
1.可燃性ガス濃度検知装置等検知・監視装置の強化 2.シフト交替時の引き継ぎ内容徹底 3.従業員に危険物の性状を理解させるための教育の強化 |
知識化 |
1.作業者交替時の引き継ぎが悪いと重大な結果を招くことがある。 2.引き継ぎで重要なことをきちんと引き継げるような体制作りと維持も、管理職の仕事の一つである。 |
背景 |
1.作業者のシフト交替の引き継ぎ体制不良が考えられる。後番の作業状態の思い込みによる事故ではあるが、その原因は引き継ぎにあるであろう。具体的な引き継ぎ体制は不明だが、口頭だけの引き継ぎだけでなく、引き継ぎ帳などを用意して記録に残す、疑問を感じたら確認できる体制が必要と考える。 2.作業状況を確認できるシステムがないように見える。化学装置の反応などの多くは容器の中で行われ、外部からは温度、圧力等しか見えない。バッチ運転方式では、同一の容器で幾つかの作業が行われる。今、容器内でどのような状況にあるかを分からせる必要があるだろう。この事例でも、反応缶の目に付き易いところに”二次反応中”といったカンバンがあれば、起こらなかった事故であろう。 3.教育が根底にあると感じる。同一の反応釜で幾つかの作業が行われている。ある作業の時に別の作業条件にしたら、危険になるとか規格外品が生産される可能性があるだろう。2に示したカンバン等で状況を把握させるだけでなく、どのような理由で作業条件が決定されたかなどの教育が重要であろう。シフトメンバー間の連絡相談などについて教育することも重要である。この事例では、作業員が一人でなければ、相談して自らの思い込みに気が付いたかも知れない。”ほう・れん・そう”の徹底も教育がベースであろう。 以上3項目を考えると、全体的な管理体制や規律の低下といった要素が感じ取れる。 ”ほう・れん・そう”: 報告・連絡・相談の略である。仕事を順調に効率よく進行させるためのキーワードとして、産業界では広く使われる。安全関係でも重要なキーワードである。 |
よもやま話 |
☆ トヨタの改善で有名なカンバン方式も、化学産業で導入できる一つの例ではないかと感じられる。 |
データベース登録の 動機 |
オペレータが工程を勘違いしたことによる事故事例 |
シナリオ |
主シナリオ
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組織運営不良、管理不良、管理の緩み、不注意、注意・用心不足、申し送り不良、誤判断、誤認知、勘違い、定常操作、誤操作、逆方向への操作、不良現象、化学現象、異常反応、二次災害、損壊、爆発、身体的被害、負傷、3名負傷、組織の損失、経済的損失、損害額4,400万円
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情報源 |
消防庁、危険物に係る事故事例‐平成4年(1993)、p.110-113
近代消防、No.361(1992)、p.35
若倉正英、飯塚義明、災害の研究25(1994)、p.301-311
全国危険物安全協会、危険物施設の事故事例100-No.2-(1994)、p.40-41
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死者数 |
0 |
負傷者数 |
3 |
物的被害 |
エチレン系製品製造工場80平方m焼損。工場内24施設小破壊,付近民家92棟の窓ガラス等破損。 |
被害金額 |
4,408万円(消防庁による) |
マルチメディアファイル |
図3.化学式
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備考 |
WLP関連教材 ・化学プロセスの安全/製造時での事故と安全 |
分野 |
化学物質・プラント
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データ作成者 |
小川 輝繁 (横浜国立大学大学院 工学研究院 機能の創生部門)
田村 昌三 (東京大学大学院 新領域創成科学研究科 環境学専攻)
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