事例名称 |
混蝕反応が引き金となってTNT硝化工室で爆発 |
代表図 |
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事例発生日付 |
1996年11月19日 |
事例発生地 |
広島県 江田島町 |
事例発生場所 |
火薬工場 |
事例概要 |
1.TNT製造設備で大爆発が起こった。精製部門の結晶槽の爆発が最初だった。 脱硝塔の修理作業のため、TNT製造作業を5日間中断して、6日目に製造を再開した。再開後内容物の固化に起因する配管の詰まりによるトラブルがいくつか発生したが、いずれも対症療法で切り抜けて作業を継続した。 2.災害発生当日の朝、製造作業開始間もなく炭酸ナトリウム槽の配管が詰まりバルブが開かなくなった。そこで、バルブおよび配管を蒸気で暖めて詰まりを除去して、確認のためバルブを開いたところ炭酸ナトリウム1L程度が結晶槽に溜まった。結晶槽には前バッチ残留TNTが15~20kg残っていた。特に処置をしないでトライオイルを受け入れるために、結晶槽を蒸気で約4時間加熱した。その後トライオイルを結晶槽に受け入れる作業を開始した。オイルの流量が通常の半分程度であったので、結晶槽のドレンを抜いたところドスンと音がして茶褐色の煙が吹き出した。発煙が次第に激しくなり、黒煙に変わり、炎が吹き出したので、作業員は退避を始めた。暫くするとプラント全体が爆発し、さらに大爆発が起こった。 3.爆発の原因は、結晶槽内に残留していたTNTと炭酸ナトリウム(20%水溶液)が混ざったものが約100℃で4時間加温されたため、混触反応で発熱開始温度が非常に低い物質に変質した。これにトライオイルが加わったため、分解反応を開始し、これが加速して爆発した。さらに爆発に伴う火災の火炎により近くにあった三次硝化機内のトライオイルやDNT貯槽のDNTが爆発したものと推定される。 事故の基本原因は製造している物質の反応危険に対する知識が十分でなかったことである。 |
事象 |
TNT製造装置で大爆発が起こった。精製部門の結晶槽の爆発が始まりだった。 発災日の6日前に脱硝塔のガラス破損が発見され、翌日から5日間装置は停止した。 発災日の朝、製造作業開始間もなく炭酸ナトリウム槽の配管が詰まりバルブが開かなくなった。そこで、バルブおよび配管を蒸気で暖めて詰まりを除去して、確認のためバルブを開いたところ炭酸ナトリウム1L程度が結晶槽に溜まった。結晶槽には前バッチ残留TNTが15~20kg残っていたが特に処置をしないでトライオイルを受け入れるために結晶槽を蒸気で約4時間加熱した。その後トライオイルを結晶槽に受け入れる作業を開始した。オイルの流量が通常の半分程度であったので、結晶槽のドレンを抜いたところドスンと音がして茶褐色の煙が吹き出した。発煙が次第に激しくなり、黒煙に変わり、炎が吹き出したので、作業員は退避を始めた。しばらくするとプラント全体が爆発し、さらに大爆発が起こった。 トライオイル: 工場用語でTNTへの三次硝化を終え、酸を分離したTNT、付着酸、異性体などの混合物。粗TNTとでもいった感じのもの。 |
プロセス |
製造 |
単位工程 |
反応 |
単位工程フロー |
図2.単位工程フロー
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反応 |
ニトロ化 |
化学反応式 |
図3.化学反応式
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物質 |
TNT(TNT)、図4 |
硝酸(nitric acid)、図5 |
炭酸ナトリウム(sodium carbonate)、図6 |
事故の種類 |
爆発 |
経過 |
1996年11月13日 作業終了後、廃酸の脱硝を行う脱硝塔のガラス破損が確認された。翌日からTNT製造作業を中断して脱硝塔の修理作業を行うことになった。 14日~18日 脱硝塔の修理作業を行った。部品不足のため、修理作業を中断して翌日からTNT製造作業を再開することになった。再開に備えて各タンクに蒸気を通して18日の作業を終了した。 19日08:15 作業準備を開始し、その後三次硝化機に混酸を仕込み、90℃まで昇温した。 引き続き、三次古酸を二次硝化機に仕込もうとしたが、オイルが固化していたので、三次古酸が上がってこなかった。 09:30頃 配管を取り外して蒸気を通して三次古酸の移送配管の詰まりを除去した。 三次硝化機昇温後DNTを計量槽から仕込んだが計量槽壁面にDNT結晶が付着していたので、仕込量が十分でなかった。付着した結晶を溶解するのに時間がかかるため、DNT貯槽から計量槽にDNTを補給しようとしたが、固化により配管が詰まっていたので、DNTが上がってこなかった。 12:12頃 配管をはずし、蒸気を通して詰まりを除去し、DNTの追加仕込みをした。 DNTの仕込みが終了後三次硝化機の昇温を開始した。通常35分で112℃まで昇温するところ102℃までしか上昇しなかった。その後熟成時間を40分まで延長して(通常15~30分)、蒸気で加温しながら105℃まで上昇させた。 一方、始業後結晶工程の準備のため炭酸ナトリウム槽を確認したところリング状の結晶が出ていた。そこで、バルブを確認したところ固化して開かなかった。蒸気で配管を加熱したが、詰まりの除去に時間がかかった。午前11時頃詰まりが除去されたので、バルブを開くと炭酸ナトリウム(20%水溶液)1L程度が結晶槽に溜まった。 結晶槽はトライオイルを受け入れるために10時から蒸気で加温しており、受け入れたときは108.5℃であった。 14:13頃 加熱蒸気を停止してトライオイルを結晶槽に受け入れたが、NOxの発生量が通常より少なかったので、結晶槽内をのぞくとトライオイルの流量が通常の半分程度であった。 その後ドスンと音がして大量のNOxが発生し、その発生量は次第に激しくなり、黒煙に変わった。その後ゴーという音がして結晶槽上部のマンホールから30cmほどの炎が観測されたので、作業員は危険を感じて退避した。 それから1~2分後大きな爆発が起こり、さらに2~3分後に大爆発が起こった。 古酸:硝化工程(ニトロ化)を終え、オイルと分離された古い混酸をいう。三次硝化終了後の古酸を三次古酸、二次硝化終了後の古酸を二次古酸とこの工場では言っている。溶解しているTNT, DNT回収のため、1段階前の硝化工程で再使用される。 |
原因 |
1.結晶槽には前バッチのTNT15~20kg残留していたが、それに炭酸ナトリウム(20%水溶液)約1Lが流入し、約100℃で4時間加温された状態となっていたため、混触反応により発熱開始温度が非常に低い物質に変質していた。 2.これにトライオイルを受け入れたため、分解反応を開始し、これが加速して爆発した。さらに爆発に伴う火災の火炎により、近くにあった三次硝化機内のトライオイルやDNT貯槽のDNTが爆発したものと推定される。 |
対処 |
危険を察知して作業員は退避した。 |
対策 |
1.緊急事態回避設備の強化 2.保安管理体制の強化、特に保安理部門の権限強化並びに運転管理部門と保安管理部門の連携強化 3.作業員に対する保安教育の強化 4.製造保安マニュアルの見直し |
知識化 |
危険物の製造や取り扱いにおいては、通常と異なる操作や事象があるときは危険性について十分検討して、安全性を確認してから作業を継続する。 |
背景 |
1.製造している危険物の反応危険に対する知識が十分でなかった。トラブル発生時も根本的な対策を行わず対症療法で切り抜けようとした。 2.通常と異なった操作や事象は事故につながることが多いが、このような変更時の危険に対する認識が低かった。 |
後日談 |
当該事業所では、製造システムをバッチシステムから連続システムに変更して生産を再開した。 |
データベース登録の 動機 |
TNT製造中の爆発事故例 |
シナリオ |
主シナリオ
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価値観不良、安全意識不良、リスク認識不良、組織運営不良、運営の硬直化、工期最優先、無知、知識不足、勉強不足、使用、保守・修理、詰りの除去、不良行為、規則違反、安全規則違反、不良現象、化学現象、危険物質の生成、二次災害、損壊、爆発、身体的被害、負傷、2名重傷、5名軽傷、組織の損失、経済的損失、工場大破、被害額8.5億円
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情報源 |
中央労働災害防止協会安全衛生情報センター、労働災害事例 No.100131、中央労働災害防止協会ホームページ
中央労働災害防止協会資料(1997)
消防庁、危険物に係る事故事例‐平成8年(1997)、p.126-127
C社E工場TNT硝化工室事故調査委員会、C社E工場TNT硝化工室で発生した事故に関する調査報告書(1997)
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死者数 |
0 |
負傷者数 |
8 |
物的被害 |
全壊40棟(うち全焼4)、半壊14(うち半焼2)、一部破損65棟(うち部分焼1)、山林など40.6a焼く. |
被害金額 |
約8億5,000万円(消防庁による) |
社会への影響 |
1996年11月19日15:44,半径1km以内の住民12人に避難勧告. |
マルチメディアファイル |
図4.化学式
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図5.化学式
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図6.化学式
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分野 |
化学物質・プラント
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データ作成者 |
小川 輝繁 (横浜国立大学大学院 工学研究院 機能の創生部門)
田村 昌三 (東京大学大学院 新領域創成科学研究科 環境学専攻)
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