失敗事例

事例名称 減圧蒸留装置の塔底循環線配管における腐食による配管開孔からの漏洩重油の火災
代表図
事例発生日付 1990年07月19日
事例発生地 山口県 徳山市
事例発生場所 製油所
事例概要 平常運転中の製油所の減圧蒸留塔塔底油の循環配管で開孔を生じ漏洩、火災になった。耐食材から炭素綱への配管材質の変更点を間違え、耐食性が十分でない配管(STPG38, 炭素鋼)を硫黄化合物を含む重質油を扱う位置に使用したため腐食が発生し、漏洩し、事故となった。
事象 減圧蒸留装置の加熱炉循環ポンプの吐出配管が、高温環境下で重質油に含まれる硫黄化合物により腐食減肉して開孔を生じ重質油が漏洩した。漏洩した重質油が発火し火災となった。
プロセス 製造
単位工程 蒸留・蒸留
単位工程フロー 図2.単位工程フロー
物質 重質油(vacuum residue)
事故の種類 漏洩、火災
経過 1975年5月 完成、運転開始した。
1989年10月 直近の定期修理工事。ただし当該配管の点検記録はない。
1990年7月19日12:00頃 通常運転中の第二減圧蒸留装置の加熱炉循環ポンプ吐出配管より突然、重質油が漏洩し、火災が発生した。ただちに同装置を緊急停止、災害対策本部設立、市消防本部へ通報、防災活動を開始した。
12:10 市消防車到着、同時に自衛消防隊は公設消防隊の指揮下に入った。
12:10 同装置の緊急停止の一次操作を完了した。
12:23 減圧蒸留塔系に窒素ガスの導入を開始した。
12:48 火災鎮火を確認した。
原因 1.漏洩の原因
 減圧蒸留装置の加熱炉循環ポンプの吐出配管が、高温環境下で重質油に含まれる硫黄化合物により腐食減肉し、開口を生じたためと推定される。また固形分が多くなるところなので、エロージョンも影響する可能性がある。
2.着火の原因
 漏洩した重質油が発火したものと推定される。
対処 1.火災覚知後、減圧蒸留装置を緊急停止した。
2.自衛消防隊、公設消防隊による放水冷却消火が行われた。
対策 1.当該配管の材質を耐食材料に変更した。
2.設計面では配管選定基準の考え方を再教育、確認すべきである。
知識化 1.配管の材料は使用環境や条件を十分考慮して決定する必要がある。
2.配管材料の選定を変更するポイントを便宜的にバルブやフランジで行うのではなく、腐食媒体の有無や温度、圧力など基本条件の変化で行うべきだ。変更点が配管形状などとうまくマッチングしないなら、適当なところまでより高級材を使う。
背景 1.明らかな配管材料選定のミスか配管選定基準の適用ミスと見られる。当該配管は減圧蒸留塔塔底からフィード加熱炉に循環する配管で、発災箇所のすぐ下流で、フレッシュなトッパー塔底油であるフィード液と合流している。循環配管側の材質は温度と流体から5Cr-0.5Mo鋼以上の高級材料が必要である。それに対し、フレッシュフィード側は通常の炭素綱で構わない。発災部は合流点の上流であるから、5Cr-0.5Mo鋼以上でなければならない。それを発災部上流にある逆止弁下流フランジを持って、配管選定の変更点として、発災部は炭素綱を選択している。明らかな材質変更点の選択ミス、設計ミスである。
2.1.の原因を推定すると、通常配管の材料選定はフランジを境界にされることが多い。設計者は、逆止弁から下流部に適当なフランジがなかったため、安くするため炭素鋼を選定したと思われる。本来は、フレッシュフィード側の合流点前後の配管を5Cr-0.5Mo鋼以上の材質を選ぶべきだった。発災部は原油の蒸留系で最も重質な部分で固形分や腐食媒体も多く温度も高い。材料の選定に十分な注意が必要なところである。また、事前に配管の点検で腐食を発見できれば開孔の発生は防ぐことができたと考えられる。
データベース登録の
動機
配管材料選定基準の適用ミスによる腐食に起因する漏洩と火災例
シナリオ
主シナリオ 価値観不良、安全意識不良、リスク認識不足、誤判断、状況に対する誤判断、使用環境の誤判断、不注意、注意・用心不足、作業者不注意、計画・設計、計画不良、材料選定不良、使用、保守・修理、点検不良、破損、減肉、腐食、二次災害、損壊、漏洩・火災、組織の損失、経済的損失、被害金額4,500万円
情報源 産業と保安、Vol.6(No.36)、p.2(1990)
産業と保安、Vol.7(No.22)、p.2-3(1991)
高圧ガス保安協会、石油精製及び石油化学装置事故事例集(1995)、p.30-33
死者数 0
負傷者数 0
物的被害 加熱炉の循環ポンプ周辺配管、ポンプの焼損.保温、塗装等の剥離.周辺部の電気、計装部品一部焼損.
被害金額 約4,500万円(報告書による)(高圧ガス保安協会による)
備考 WLP関連教材
・プラント機器と安全-設備管理/配管とバルブの安全
分野 化学物質・プラント
データ作成者 土橋 律 (東京大学大学院 工学系研究科 化学システム工学専攻)
田村 昌三 (東京大学大学院 新領域創成科学研究科 環境学専攻)