事例名称 |
アルキルアルミニウム製造装置における残存物どうしの混触に起因する爆発・火災 |
代表図 |
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事例発生日付 |
1996年07月17日 |
事例発生地 |
大阪府 高石市 |
事例発生場所 |
化学工場 |
事例概要 |
有機金属化合物の製造装置で、反応器の洗浄不足から残存した不純物が混入し異常反応が起こり反応器が破裂し火災が発生した。 |
事象 |
多目的生産装置のバッチ式水素化反応器で金属の水素化物を製造中、反応器が破裂し、火災が発生した。この事故により、敷地内で作業していた協力会社作業員や同工場社員の13名が負傷し、半径約1kmの範囲の公共施設や一般住宅等にも爆風による窓ガラスの破損等の被害がおよんだ。また、反応器の内容物を付近に飛散させ火災となり、プラント付近に置かれていた運搬容器(シリンダー)が破裂し、周囲に飛散、被害を拡大させた。なお、同反応器ではナトリウムアルミニウムヒドリド(NAH)とナトリウムビス-2-メトキシエトキシ-アルミニウムヒドリド(SAH)の2種類の製品が製造されていた。 |
プロセス |
製造 |
単位工程 |
反応 |
単位工程フロー |
図2.単位工程フロー
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反応 |
その他 |
物質 |
ナトリウム水素化ビス(2-メトキシエトキシ)アルミニウム(sodium bis(2-methoxyethoxy)aluminium hydride)、図3 |
ナトリウムアルミニウムハイドライド(sodium aluminium hydride)、図4 |
テトラヒドロフラン(tetrahydrofuran)、図5 |
事故の種類 |
爆発、火災 |
経過 |
1996年1月 SAHの2回目の製造法の変更を行い、新製造法での製造を開始した。 以後多数のNAHのバッチの合間をぬってSAHの製造が行われた。 1996年7月17日10:00頃 SAHおよびノルマルブチルリチウム(NBL)を製造していたところ、SAH製造装置の水素化反応器付近で爆発火災が発生した。 爆発音とともに火炎、黒煙が吹き上げた。 ただちに自衛消防隊が出動するとともに、消防署に通報、消防車による化学消火剤放射及び延焼防止のために放水を行った。 23:22 鎮火を確認した。 |
原因 |
1.NAHの製造ではテトラヒドロフラン(THF)を使う。SAH製造に切り替えるときに、そのTHFをトルエンで洗浄するが、洗浄不十分でTHFがわずかに残存していた。NAH運転時には飛沫により気相部壁面にNAHなどが付着していた。また、SAH製造では仕込み原料の適正な量的把握がされず、余剰に投入されたナトリウム、アルミニウムがNAHに転換されていた。 2.事故当日、反応器気相部壁面に想定していなかった物質NAHとTHFが存在した。そこで反応器ジャケットの180℃の高温で想定外の化学反応(発熱反応)が起こり、反応器内部の温度が局部的に上昇し、このため、SAHの発熱分解を誘発して反応器の内部圧力が急激に上昇した。水素化反応器が破裂し、さらに反応熱により着火し火災となったものと推定される。 |
対処 |
原料遮断 |
対策 |
今回のような異常反応を阻止するため、残存物質管理も含めた不純物の混入防止、取り扱い物質の安全性評価、適切な物質の量的管理に努める。 |
知識化 |
不純物の混入が大規模な事故に発展することを十分認識すべきである。マルチパーパス設備では、残存物質など特に注意が必要である。反応の危険性や不純物の影響は予め予測して把握しておくべきであった。 |
背景 |
反応器の洗浄不十分のため、反応器内に異常反応を誘発する物質が存在したことが基本的事故要因である。 事故以後にNAHとTHFの発熱反応、SAHの発熱分解反応などの実験が行われている。NAHが飛沫で壁面に付着することはわかっており、THFが残る可能性があることは予測可能であろう。研究と製造との連携がもう少し十分になされていたら対応はとれていた可能性があると推測する。 |
よもやま話 |
☆ 反応方式を変更して事故になった例であろう。変更に伴う事故例は多いが、これもその一つである。 |
データベース登録の 動機 |
マルチパーパスプラントにおける残存物質との反応による爆発火災例 |
シナリオ |
主シナリオ
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価値観不良、安全意識不良、リスク認識不良、組織運営不良、管理不良、作業管理不良、不注意、理解不足、作業者不注意、使用、運転・使用、銘柄切替え時の洗浄、定常操作、誤操作、不良現象、化学現象、異常反応、二次災害、損壊、爆発・火災、身体的被害、死亡、身体的被害、負傷、負傷者12名、組織の損失、経済的損失、損害額2.1億円、社会の被害、社会機能不全
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情報源 |
消防庁、危険物に係る事故事例‐平成8年(1997)、p.90-91
堺市高石市消防組合消防本部・金銅万知、危険物事故事例セミナー(1997)、p.1-13
柳田省三、赤塚広隆、安全工学、No.202、p.61-67(1998)
柳田省三、赤塚広隆(安全工学協会編)、火災爆発事故事例集、コロナ社(2002)、p.24-30
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死者数 |
0 |
負傷者数 |
13 |
物的被害 |
半径1km内の住宅等の窓ガラス破損その他39件.マルチ工程(鉄骨造3階建て建物160平方m)全焼,全壊.実験室全焼.コンプレッサー室半焼.アルキルアルミニウムコンテナ置場のシリンダー焼損.その他隣接工場建物のスレート側壁等の破損. |
被害金額 |
約2億2,000万円(消防庁による) |
社会への影響 |
阪神高速湾岸線通行止め. 市立小学校7校の児童ら校内で帰宅待機. |
マルチメディアファイル |
図3.化学式
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図4.化学式
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図5.化学式
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備考 |
還元剤であり、環境中に放出後は速やかに反応し、ナトリム、アルミニウム、リチウム塩となって残留する可能性があるが、天然にも豊富なので環境影響はないと考えられる。 WLP関連教材 ・化学プラントユニットプロセスの安全/仕込み ・化学反応の安全/化学反応の安全概論 |
分野 |
化学物質・プラント
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データ作成者 |
土橋 律 (東京大学大学院 工学系研究科 化学システム工学専攻)
吉永 淳 (東京大学大学院 新領域創成科学研究科 環境学専攻)
田村 昌三 (東京大学大学院 新領域創成科学研究科 環境学専攻)
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