失敗事例

事例名称 殺虫剤製造装置における中間物質濃縮液タンクの爆発
代表図
事例発生日付 1996年11月20日
事例発生地 大分県 大分市
事例発生場所 農薬製造工場
事例概要 新規農薬の新設装置の試運転中に、ポンプ故障のため、自己分解反応性のあるジメチルチオホスホロアミド(DPAT)が高温のタンク内に滞留する状況となった。その後ポンプ修理は完了したが、次工程の進行の遅れもあり、ポンプの再稼働をしないでそのまま放置した。DPATが反応暴走に至りタンクの爆発火災を引き起こした。長時間滞留は危険との情報を得ていたが、全体の状況を把握して作業全体をコントロールすることができていなかった。
事象 殺虫剤製造工場において、前後の工程の操業上の都合でジメチルチオホスホロアミド(DPAT)濃縮工程の運転を停止した。翌日、同工程内の20号タンクの内圧が急激に上昇し、タンクが破裂した。この事故により、パトロール中のオペレーター1名が負傷し、建家の一部と設備の一部が損傷した。
プロセス 製造
単位工程 蒸留・蒸発
単位工程フロー 図2.単位工程フロー
図3.単位工程フロー
物質 ジメチルチオホスホロアミド(dimethyl_thiophosphoroamide)
事故の種類 爆発
経過 1996年11月19日16:15 後段の工程への送液ポンプが故障し、ポンプ修理のため前段のアミド化工程を停止した。高温のDPATが20号タンクに滞留した。
17:30 ポンプ修理が完了したが、次工程の停止作業が入り、担当技術者はその対応に追われ、ポンプの再起動を忘れ、そのまま放置した。
19:30頃 シフト交代のミーティングが行われた。
 その後も他の作業のため、再起動は忘れたままであった。
20日03:55 タンクの内圧が急激に上昇し、タンクが破裂した。
原因 1.高温で長時間放置しておくと自己分解反応をおこすDPATの濃縮液を、20号タンク内に高温下で長時間にわたって滞留させた。そのため、自己分解反応し爆発が起こった。
2.運転担当の技術者は危険情報を受け取っていた。
対処 緊急停止措置、水噴霧消火設備による二次災害防止及び臭気拡散防止
対策 1.当該工程の安全対策
2.物質に対する安全教育の徹底
3.運転マニュアルの見直し
4.防災体制の見直し
知識化 自己分解反応性物質は滞留させておくことが反応暴走につながることもある。危険性の十分な認識が不可欠である。
背景 自己分解反応性のあるDPATを高温のタンク内に滞留させたままだったことが最大の事故原因である。その背後に以下に示す要因が考えられる。
 試製造中であり、下流装置の故障で、次に進めなかった。試製造という不安定な状態であり、不具合を生じたときに何をすべきかを明解に記した指示と、運転をバックアップする体制が重要である。そこを怠ったか、そのバックアップをする役割の人間が一緒に右往左往したのではないかと推測する。一人ずつの役割分担を明確にすることが必要であろう。
よもやま話 事故を起こした試運転には、一人の主任技術者に全ての状況把握と指揮を負わせて、つい失念してしまったという背景も見受けられる。試運転の全てを一人に任せバックアップのない体制で実施した点も、重要な事故発生要因といえる。
データベース登録の
動機
試製時のトラブル対策に齟齬があって自己分解性物質が爆発した事故例
シナリオ
主シナリオ 組織運営不良、管理不良、構成員疲労、価値観不良、安全意識不良、安全教育・訓練不足、不注意、注意・用心不足、一人に集中、非定常操作、操作変更、操作手順変更、不良現象、化学現象、異常反応、破損、大規模破損、破裂、二次災害、損壊、爆発・火災、身体的被害、負傷、組織の損失、経済的損失、損害額7000万円
情報源 中央労働災害防止協会安全衛生情報センター、労働災害事例 No.100132、中央労働災害防止協会ホームページ
消防庁、危険物に係る事故事例‐平成8年(1997)、p.132-133
中央労働災害防止協会、災害発生状況(1997)
死者数 0
負傷者数 1
物的被害 建家の外壁等損傷、T-606(20号タンク)全壊、周辺危険物機器損傷.
被害金額 7,300万円(消防庁による)
備考 タンク破裂の規模が小さかったので、環境中に排出された主なものはDPATの分解生成ガスであるメチルメルカプタン、ジメチルスルフィドであったと考えられる。メチルメルカプタンは可燃性ガスだが環境影響は知られていない。ジメチルスルフィドは植物にも含まれ、二次生成微粒子(大気粉塵)の原因物質である。
分野 化学物質・プラント
データ作成者 土橋 律 (東京大学大学院 工学系研究科 化学システム工学専攻)
吉永 淳 (東京大学大学院 新領域創成科学研究科 環境学専攻)
田村 昌三 (東京大学大学院 新領域創成科学研究科 環境学専攻)