事例名称 |
重合反応用の触媒の分解反応による貯蔵タンク内での爆発 |
代表図 |
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事例発生日付 |
1995年12月29日 |
事例発生地 |
三重県 四日市市 |
事例発生場所 |
化学工場 |
事例概要 |
ポリスチレン製造装置で有機過酸化物である触媒の爆発があった。気温低下のため、タンクから反応器への触媒配管内で触媒が凝固するトラブルが繰り返された。このため、スチーム配管を巻いて加熱を行った。その時工事中で停止している予備ポンプ側の配管にまで加熱を行った。そのため、予備ポンプ側の触媒が自己発熱分解温度よりも高温になり、分解を開始した。分解で発生した高温ガスの逆流により触媒タンク内まで加熱され爆発した。触媒の熱挙動の把握も十分でなかった。 |
事象 |
ポリスチレン製造装置で重合触媒の有機過酸化物の爆発が起こった。気温の下がった12月に触媒供給配管にスチームトレースを実施した。その後、有機過酸化物触媒(物質名:t-ブチルペルオキシベンゾエート)の貯蔵タンクで、触媒が自己発熱分解を起こして爆発し、周辺の建屋と機器を破損した。 |
プロセス |
製造 |
単位工程 |
仕込 |
単位工程フロー |
図2.単位工程フロー
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物質 |
t-ブチルペルオキシベンゾエート(t-butyl_peroxybenzoate)、図3 |
スチレン(styrene)、図4 |
事故の種類 |
爆発 |
経過 |
ポリスチレン製造装置の運転中、気温の低下のため、反応器に触媒を供給する配管内で触媒が凝固し、流量が低下した。このため、ポンプとフィルター、及び、配管に工業用水とスチームを混ぜた温水をホースでかけて触媒を溶かす作業を行った。 このトラブルは数日間繰り返され、その度に対処していたので、触媒タンクから反応器への供給配管の保温材の上にスチーム管を巻いて加温することにした。 1995年12月2日 ポンプ出口から流量計までを施工した。 27日 さらに、原料タンクからポンプ入口までを施工した。 17:00頃 スチームを流して加温を始めた。 29日 21:50頃 トラブルが再発し配管にホースでスチームをかけたところ復帰したので、そのまま固定し、スチームをかけ続けた。 22:00頃 再び流量低下のトラブルを起こした。スチームホースによる加温を停止し、ストレーナーを分解点検したが回復しなかった。 22:30頃 スチームによる加温を停止し、触媒タンクを点検したところ、圧力計が振り切れて故障していたのでこれを交換した。 爆発の直前に配管のドレン弁を開いたところ、大量のガスが噴出した。 23:01 危険を察知し、計器室へ避難する途中に爆発が起こった。 23:03 消防に通報した。3台15人出動した。 自衛、公設消防によりプラントの冷却放水がなされた。 30日 11:40 処理終了した。 |
原因 |
タンクから反応器への供給配管に凝固防止のためスチーム加温をしていた。供給ポンプは予備機を含め2台であるが、予備機側の配管も加温していた。予備機側の配管部分の温度が自己発熱分解温度を超えて、分解を始めた。さらにその高温の分解ガスがタンクへ逆流し、タンク内の液温が上昇しタンク内で触媒が分解、爆発した。 |
対処 |
1.自衛消防2台、10人。公設消防3台15人が出動。 2.プラントへの冷却放水。 |
対策 |
1.発災した有機過酸化物を溶剤で希釈して凝固を防止する。 2.触媒タンクに温度計と温度警報を設置する。 3.供給配管の滞留部を最小化する。 4.非定常作業の作業基準の見直しを行う。 5.安全教育訓練の充実する。 |
知識化 |
1.触媒や反応開始剤として用いられる物質は、反応性に富み、熱安定性がよくない物質がある。 2.触媒は、反応器内であればその濃度が高くなることはないが、触媒タンクやその配管内では、その濃度が極めて高く、その物質の危険性を事前に把握する必要がある。 3.予備ポンプ側の配管は行き止まり配管になっており、動きがない。行き止まり部分の各種の挙動は流れがあるところとは異なるので十分な注意が必要である。 |
背景 |
1.流れのない部分の加熱により、自己発熱分解開始温度以上になった。 2.自己発熱分解性物質の熱安定性を十分に把握していなかった。 3.流れのない部分の加熱が加熱媒体の温度近くまで温度上昇をもたらすという知識がなかった。 安全知識の欠落による事故といえるであろう。 |
よもやま話 |
☆ これも行き止まり部分に起因する事故である。流れがない場所での加温には十分な配慮が必要である。 |
データベース登録の 動機 |
流れのない部分での加温は予想外の温度上昇を起こす例 |
シナリオ |
主シナリオ
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無知、知識不足、勉学不足、価値観不良、安全意識不良、リスク認識不良、組織運営不良、管理不良、作業管理不良、計画・設計、計画不良、加熱計画不良、非定常行為、変更、加熱方式変更、不良現象、化学現象、異常反応、二次災害、損壊、爆発、身体的被害、死亡、組織の損失、経済的損失、損害額5000万円
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情報源 |
消防庁、危険物に係る事故事例-平成7年(1996)、p.340-341
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死者数 |
1 |
負傷者数 |
0 |
物的被害 |
1階部分で6.6平方mの範囲の機器等、2階床面約120.4平方m、3階床面約45.4平方m、4階床面12.5平方m破損.周辺の建屋18棟の窓ガラス及びスレートなど破損. |
被害金額 |
約5,000万円(消防庁による) |
マルチメディアファイル |
図3.化学式
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図4.化学式
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分野 |
化学物質・プラント
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データ作成者 |
板垣 晴彦 (独立行政法人産業安全研究所 化学安全研究グループ)
田村 昌三 (東京大学大学院 新領域創成科学研究科 環境学専攻)
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