失敗事例

事例名称 半導体工場におけるウォータースクラバーの洗浄中の水素の爆発
代表図
事例発生日付 1996年12月19日
事例発生地 大分県 日出町
事例発生場所 半導体製造工場
事例概要 半導体製造工場の排ガス処理装置において、ウォータースクラバーの内部をフッ化水素酸により洗浄中、洗浄するケイ素化合物と反応して水素が発生した。水素が洗浄液の排水時に逆流する空気と混ざり、水と反応する物質がスクラバー内に生成していたため、着火爆発した。水素の発生を事前に把握しておらず、さらに、作業者が自己の判断で作業手順を変更していた。
事象 半導体工場において、特殊材料ガスの排ガス処理設備のウォータースクラバーの月1回の洗浄作業中、発生していた水素が逆流した空気と混合して爆発し、ウォータースクラバーが破損、飛散した液を浴びた2名が軽傷を負った。水素の発生を認識していなかった。
プロセス 使用
物質 フッ化水素酸(hydrofluoric_acid)、図2
水素(hydrogen)、図3
事故の種類 爆発
経過 1996年12月18日17:30 設備の停止後、ウォータースクラバーへの配管の弁を閉め、配管と排ガス処理装置内の排ガスの窒素パージを開始した。
2月19日09:45 スクラバー内の水を排水してからフッ化水素酸を水槽に溜めた。次に、窒素を流して、フッ化水素酸を適宜供給しつつ、スクラバーのポンプを運転し、付着した二酸化ケイ素を洗浄した。洗浄ノズルが詰まっていたので、窒素を止めてフッ化水素酸をさらに足した。
11:04 水位を自動運転レベルとし、水を供給してフッ化水素酸を希釈しながら循環させ、オーバーフロー分を排水した。
11:10 窒素のバルブを少し開いて流したところ、爆発し、ウォータースクラバーが裂けた。
原因 1.内部の付着物は、実際にはケイ素が酸化ケイ素で覆われており、表面の酸化ケイ素が溶けるとケイ素とフッ化水素が反応し、水素が発生することが事故後に判明した。
2.溜めておいたフッ化水素酸の液面を下げる際に、排ガス処理装置から空気(酸素)が逆流する。
3.着火源は、イオウとケイ素とフッ素が結合したシクロジシルチアンのような化合物が水と反応して爆発的に分解したためと推定された。
対処 負傷者を救護。
対策 1.空気(酸素)が逆流しない構造とする。
2.流量計を設け、窒素パージを十分に行う。
3.作業標準を作業者の判断で変更しないこと。
4.保護具を着用する。
知識化 1.一般的でない危険物の取扱いは、通常の危険物以上に綿密である必要がある。
2.危険性が高い物質は、洗浄や廃棄の工程であっても、基本的な危険性は変わらない。
3.有害性や腐食性のある物質は、安全のため密閉系で取り扱われるが、災害時には密閉が崩れて、周囲に拡がるから、飛散防止具や保護具を使用することが望ましい。
背景 1.原因欄で示されているように、装置の製造時の反応や流動の特性を把握していなかった管理側の不備が原因だろう。さらに規律の乱れも指摘される。作業前に保護具の着用を注意されていたが、直接扱わないとして着用しなかったことに現れている。
2.作業標準が作成されていたが、化学の専門家でない作業指揮者が手順を変更した。
データベース登録の
動機
管理者が装置の特性を理解せずに作業標準を変更して事故を起こした例
シナリオ
主シナリオ 無知、知識不足、勉学不足、調査・検討の不足、仮想演習不足、想像力不足、組織運営不良、運営の硬直化、情報連絡不足、非定常行為、変更、手順変更、計画・設計、計画不良、設計不良、不良現象、化学現象、異常反応、不良現象、熱流体現象、逆流、二次災害、損壊、爆発、身体的被害、負傷、2名負傷
情報源 産業安全研究所資料(非公開)
死者数 0
負傷者数 2
マルチメディアファイル 図2.化学式
図3.化学式
分野 化学物質・プラント
データ作成者 板垣 晴彦 (独立行政法人産業安全研究所 化学安全研究グループ)
田村 昌三 (東京大学大学院 新領域創成科学研究科 環境学専攻)