事例名称 |
コハク酸製造装置における反応缶の安全弁取付フランジからの水素の噴出と火災 |
代表図 |
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事例発生日付 |
1998年06月08日 |
事例発生地 |
神奈川県 川崎市 |
事例発生場所 |
化学工場 |
事例概要 |
コハク酸製造設備を運転中、反応缶上部の安全弁の取付部から水素が漏れ火炎が立ち上った。原因は、定期修理時に反応缶の安全弁を検査するため着脱を行ったが、取付時に規定よりも小さなガスケットを使用し、また、ボルトの締め付けが完全でなかったため、時間経過とともに隙間が生じ、未反応の水素が漏れた。 |
事象 |
無水マレイン酸に水素を添加してコハク酸を製造する反応を行った。運転中アラームが鳴ったので現場確認を行った。反応槽の安全弁取り付け用フランジから火炎が噴出している事を見つけた。 |
プロセス |
製造 |
単位工程 |
設備保全 |
反応 |
付加 |
物質 |
水素(hydrogen)、図2 |
無水マレイン酸(maleic anhydride)、図3 |
事故の種類 |
漏洩、火災 |
経過 |
1998年5月9日 定期修理において、反応缶の安全弁を検査のため取り外した。 5月16日 ガスケットを交換して安全弁を取り付けた。 5月25日 取付部の気密試験をした。 6月8日12:15 コハク酸の製造を開始した。反応缶に自動で原料が供給され反応を開始する。 15:05 水素の供給量が低下して昇圧すると同時に低温アラームが鳴った。 15:10 スチームを供給しようとバルブを開けに行った際、反応缶の上部の青白い火炎を発見した。 ただちに水道の蛇口にホースをつないで放水し消火した。 反応缶の運転を停止して窒素を入れ、事務所に火災発生を連絡した。 |
原因 |
定期修理時に安全弁を取り付ける際、規定よりも小さいガスケットを使用し、ボルトの締めが完全ではなかった。小さなガスケットとボルトの緩みのため配管の重みが局部的にかかって徐々に接続部が傾いた。傾きにより生じた隙間から未反応の水素が噴出し、噴出時の静電気による火花で着火したとみられる。 |
対処 |
1.蛇口を使って放水した。 2.装置の運転を停止した。 3.窒素を系に導入した。 |
対策 |
1.工事時の使用部品の管理を徹底する。 2.ボルトの均等で十分な締付けを行う。 3.配管の重みを分散するサポートの新設をする。 4.工事後の点検確認の徹底を図る。 |
知識化 |
仮にミスがあっても、工事完了後にそれを見つけるのは、難しいことが多い。如何に工事のミスを少なくできるようなシステムを作り、運営することが重要になる。 |
背景 |
1.工事管理の2重のミスである。取付時の使用部品の管理、ボルトの締付力の管理が徹底していなかった。 2.工事後の点検確認と気密試験が結果的に機能しなかった。 |
よもやま話 |
工事後の気密試験は、規定圧に加圧後、石鹸水を振りかけて泡がでないことで確認する手段が多い。ガスケットや締め付け力は液の物性、温度、長期使用などを考えて規定しているので、気密試験で合格したからと言って、長期使用に耐えることなどを保証しているのではない。またボルトの締め方確認もハンマーテストといって、小型ハンマーでボルトを軽く叩いて弛んでないことを確認する程度が多い。決してトルクの測定まではしていない。工事完了後の一般的な試験で欠陥を見つけるのがむずかしい。 |
データベース登録の 動機 |
ガスケット誤用の例 |
シナリオ |
主シナリオ
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組織運営不良、管理不良、管理の緩み、不注意、理解不足、リスク認識不足、計画・設計、計画不良、工事管理計画、使用、保守・修理、修復、機能不全、ハード不良、ガスケット漏洩、二次災害、損壊、火災
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情報源 |
産業と保安、Vol.14(48)、p.17(1998)
産業安全研究所資料(非公開)
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死者数 |
0 |
負傷者数 |
0 |
マルチメディアファイル |
図2.化学式
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図3.化学式
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分野 |
化学物質・プラント
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データ作成者 |
板垣 晴彦 (独立行政法人産業安全研究所 化学安全研究グループ)
田村 昌三 (東京大学大学院 新領域創成科学研究科 環境学専攻)
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