事例名称 |
宇宙用ロケットエンジン試験設備の排気ガスダクト破損による水素ガスの爆発 |
代表図 |
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事例発生日付 |
1991年05月16日 |
事例発生地 |
宮城県 角田市 |
事例発生場所 |
研究所 |
事例概要 |
宇宙ロケットのエンジン試験設備で燃焼器への高圧水素供給系の流量計のテストが実ガスで行われていた。水素は燃焼器で燃焼されずに排ガスダクトから消音棟にある燃焼筒で燃焼して廃棄される。その時に爆発事故が起こった。5年間で132回の高温高圧の水素でテストを繰り返したので、排ガスダクトの材料が劣化した。事故調査の結果は予見困難な熱応力による劣化が主原因とされている。しかし、何度も亀裂が発見され補修されていたこと,それによる研削量が70%(14mm)にも達していたことにはあまり言及されていない。補修管理のミスを予見困難な物理的原因にすり替えたのではないかと勘ぐりたくなる。 |
事象 |
宇宙用ロケットのエンジンの供給系試験設備で爆発が起こった。42MPaの高圧水素ガスの流量計測試験中に排気ガス出口ダクトが破損し,水素が噴出,爆発した。排気ダクトの熱応力による劣化が原因とされる。テストは高圧水素を流すが、本来の燃焼器(ガス発生器という。)では燃焼させず、排ガスダクトを経て消音棟内の燃焼筒で燃焼させられる。その排ガスダクトが破損して爆発となった。 |
プロセス |
使用 |
物質 |
水素(hydrogen)、図2 |
事故の種類 |
爆発 |
経過 |
1991年5月16日16:59頃 宇宙用ロケットエンジンの供給系試験設備で水素ガスの流量計測試験中に,水素ガスを流し始めた。(水素ガスの流し始めた時間を0秒として) +5.8秒 排気ガスダクト内圧が約22MPaに達した後に,直径21cm,長さ91cmの耐熱ステンレスおよびニッケル合金製の排気ガス出口ダクトが破損し,水素ガスが噴出した。 +7.3秒 水素ガス検知器が水素ガスの漏洩を検知し,自動的に遮断弁が閉じ,約1秒後に水素ガスの噴出は止まった。 約+12.9秒 漏洩した水素ガスの爆発が起こった。 ダクト試験棟のスレート屋根が最大約160m吹き飛び,その直後上空200~300mで二度目の爆発が起こった。 最大約2kmの範囲の民家など9軒の窓ガラスが割れるなどの被害があった。 |
原因 |
5年間で132回の高圧高温の水素ガスの燃焼試験により,排気ダクト溶接部のニッケル合金の溶接材が脆くなり,破損した。 |
対策 |
1.溶接部の内面検査が行えるようにフランジ継ぎ手を設けて分解可能とする。 2.母材および溶接材の変更,熱応力を防止するための内面ライナーの装着,使用回数制限の設定,補修基準の見直しを行う。 |
知識化 |
1.補修を繰り返すと当初の性能が維持されないことがある。 2.報告書の内容を鵜呑みにしてはいけない(かもしれない)。 |
背景 |
排気ダクト材質,熱応力についての事前検討不足が考えられる。 |
後日談 |
当該排気ダクトは事故発生までの5年間で燃焼試験に132回使用されていた。使用回数117回を経た時点の検査から溶接部内面に亀裂が認められるようになり,1990年8月の検査でも亀裂が発見され,グラインダで除去後,耐圧試験,気密試験,ザイグロ試験により強度を確認してから以後の試験に使用してきた。1990年8月の補修後の溶接部の肉厚は20mmから最小6mmとなっていた。 |
データベース登録の 動機 |
報告書の結論に疑問を感じた例 |
シナリオ |
主シナリオ
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価値観不良、安全意識不良、リスク認識不良、調査・検討の不足、事前検討不足、繰返しの衝撃的な変化、誤判断、誤認知、計画・設計、計画不良、専門性不適合、使用、保守・修理、破損、劣化、二次災害、損壊、爆発
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情報源 |
小林高根、安全工学、No.166(1992)、p.41-50
高圧ガス保安協会、高圧ガス保安総覧‐平成4年版‐(1992)、p.184-185
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死者数 |
0 |
負傷者数 |
0 |
物的被害 |
ポンプ試験室、総合試験室、ガス発生器タービン試験天井屋根すべて飛散.ポンプ試験室内の計測配管ほとんど爆風で全損.50m離れた高圧ガス容器置き場のスレート屋根、190m離れた排ガス処理設備の周囲スレート障壁は爆源方向面破損. 周辺被害:民家8軒(最も遠方約2km)、工場1棟被害。うち7軒、窓ガラス破損.2軒で壁一部、建具のずれ。最も遠方の1軒は約2km. |
社会への影響 |
4-5km離れた民家でも爆発音. |
マルチメディアファイル |
図2.化学式
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分野 |
化学物質・プラント
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データ作成者 |
和田 有司 (独立行政法人産業技術総合研究所 地圏資源環境研究部門 開発安全工学研究グループ)
田村 昌三 (東京大学大学院 新領域創成科学研究科 環境学専攻)
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